水石を入れる器としては、水盤と銅盤(銅水盤)があり、小さいもので、横幅が3寸くらいのものから、大きいものでは3尺くらいのものまであり、形も楕円形・長方形をベースに、縁の付け方の違いや、足の付け方の違い、角の処理の違いにより、無限に近いくらいの形を有しているものです

○水盤

 まずは、水盤についてですが、水盤は大きく分けて陶器と磁器に分類されますが、実際の使用方法には、何らの差もありませんので、ここでは、その製造方法と特徴などについて、見てみたいと思います

・磁器水盤
 磁器水盤の特徴は、原料に磁器を使っているので、焼成時に陶器よりも狂いが少なく、形が変形することなく正確に焼けるという特徴があります。また、磁器の原料は磁石ですから、陶器水盤に比べ、なかなか時代がのってこないという特徴もあります。これは、釉薬にも同じ事が言え、同じ釉薬を利用しても陶器よりも時代ののりが遅いようです。原料の磁石は、不純物が少ないため、釉薬を掛けて焼成したときに、まったく同じものができるという特徴もあります
 磁器による水盤は、古くは中国の青磁水盤などが知られていますが、一番多いのは白磁水盤です。中国製の古い水盤などでは、手作りの水盤をたまに見ることができますが、ほとんどが、型をおこしてからその型枠に流し込んで作るという、いわゆる「流し込み製法」で作られたのがほとんどです。ですから、寸分の狂いもないまったく同じ大きさ・形の水盤が数多く残されています
 白磁の水盤が一番多いのですが、均釉・瑠璃釉・織部(緑釉)釉・青磁釉などの釉薬が掛けられたものもあり、青磁釉が掛けられたものは、特に青磁水盤と呼ばれています。釉薬ではないのですが、呉須やコバルトなどを用いた染め付けの技法による絵付けがなされた水盤もあります
 水盤の胴部分に陽刻や陰刻により、浮き牡丹・雷紋繋ぎ・唐草文様などの紋様が施されているものもあり、古い浮き牡丹の青磁水盤などは名品として知られているものもあります
 磁器水盤は、古い中国製の他に、国内では伊万里・瀬戸・砥部・三田などで焼成されました。中国の古い水盤や、丸善などの施釉水盤が人気があるようです

・陶器水盤

 磁器水盤に比べ、産地により特徴のある数多くの陶土が使われていますので、さまざまな特徴を持った水盤が焼成されてきました。焼き締めのものから、施釉されたもの、陰刻・陽刻のものまでその種類は際限がないほどです。釉薬の多彩さとともに、陶土に含まれる不純物(特に鉄分)が、釉薬に溶け出し、景色を作り出したり、不純物含有量の多寡により、釉と不純物が混ざって溶け出し釉薬の景色が変わったりする場合があり、それらが、水盤に景色を産みだし、千変万化の面白さが楽しむことができます。もちろん、焼成時の酸化・還元現象による窯変によっても、景色の変化を楽しむことができます
 ただし、陶土は、磁石とはまったく違う成分の粘土(陶土・胎土)でできているため、焼成時にゆがんだり、歪んだりしてしまう欠点も併せ持っているのですが、少々のゆがみ程度ならば、手作り「水盤の味」と考えても良いくらい、陶土による水盤製作は難しいものなのです
 また、経年変化による時代ののり(寂び)は、磁器水盤よりもはるかに早く、味のある水盤が多くみられるのも陶器製水盤の特徴です
 陶器製水盤も、古いもののほとんどは中国製で、日本では瀬戸を中心に国内で焼成されています。最近では、磁器の狂わないという特徴と、陶器の味をミックスさせた半陶半磁の水盤も焼成されるようになってきました。
 陶器水盤の場合は、窯名で呼ばれるよりも、作家の名前が呼称されることが多く、春松・緑寿庵陶翠・一陽・東福寺・香山などが良質な水盤を製作した作家として知られています

・水盤の形
 水盤の形としては、楕円と長方に大きく分けられるのですが、微妙な形を見ていくと、さらにいくつかの区分に分けることができます
   楕円
 楕円形は、両端にいって先が細くなるラグビーボール形と、それとは反対に、両端にいっても奥行きがあまり変わらない小判型の2種類に分かれます
   長方
 長方形は、幅対奥行きが10:8くらいの奥行きがあるものから、10:6くらいの奥行きがないものにまで分かれ、10:5以下の極端に奥行きが狭いものを短冊形と称します
・縁
 水盤の縁には、いくつかの種類があります。縁がまったくないものは切立(きったて):単縁、外に平らに縁が張り出したものは「外縁(そとえん)」、反対に水盤の内側に縁が張り出したものを「内縁(うちえん)」、縁に丸いふくらみを持たせたものを「玉縁(たまぶち)」などと称します。他にも「帯縁」「紐縁」などというのもあります
・胴
 縁とは少し違うのですが、縁がまったく無く胴が垂直に落ちているものは、「切立(きったて)」と呼ばれ、上部にいくに従い外側にふくらんでいくものは「外反(そとぞり)」と呼ばれています。また、胴の途中に紐状の装飾のあるものは、「胴紐(どうひも)」、胴の下に紐状のものがあるのは、「腰紐(こしひも)」、胴の途中に額状の装飾がある「額入り」などと呼ばれています
 胴に陰刻や陽刻が施されたものもあり、浮き牡丹・雷紋繋ぎ・唐草文様などのほかに、古代紋様や卍繋ぎ紋などもあります。変わった形式のものでは、胴部分だけが極端に張り出した「袋式(ふくろしき)」などという形もあります
・足
 足にも、付ける位置や形によって、いくつかの種類があります。足が水盤の胴部分と同じようにつけられている「切足(きりあし)」、胴面よりも内側に入っている「入足(いりあし)」、足が2〜3段になって作られているものは「段足(だんあし)」、雲形状の形状に作られている「雲足(くもあし)」などのように分かれています
・隅
 楕円の場合には、隅(角)というのは存在しないのですが、長方の場合には、必ず四隅が生じ、いくつかの拵え方法があります。何の拵えがないものは「角(かく)」、角をスパッと切ったようなものは「隅切り(すみきり)」、隅切りの中でも一段と隅切り具合が高いものは「大隅切り(おおすみきり)」、ゆるやかなカーブを持たせたものは「撫で角(なでかく)」、撫で角よりも角を大きく切ってあるものは「大撫で角(おおなでかく)」と、それぞれ呼ばれ水盤の大きなアクセントとなっています

○銅盤(銅水盤)

 銅盤については、銅の合金で作られている水盤で、含有される物質の違いにより黄銅・青銅・朱銅・斑朱銅・斑青銅などに区分されますが、ほとんどのものは黄銅製ですが、まれに純銅の銅盤もあります
 銅盤の製法には、鋳型を作り熔けた銅合金を流しこんで作る「流し込み」方法と、底・銅・足などの個々の部品を手作りしてから、それらのパーツを蝋付けする手作り製法が主力になります。まれには、蝋型を作りそこに銅を流し込んで、1枚1枚を丁寧に手作りされた高級銅盤もあります
 銅盤の形は、基本的には水盤と同じですが、胴部分の装飾が陶磁器水盤とは少し異なり、銅盤には、「卍透かし」・「霰紋」・「古代紋」などの、銅盤だけのオリジナルに近い紋様も見られます。陶磁器製の水盤に比べ、全体に低めに作られているということも特徴の一つで、深い作りの物はあまり見かけることはありません。また、最大の物は3尺というバカでかい大きさのものもあるように、陶磁器製のもに比べて大きな物がたくさんあるのもその特徴です

 このように、水盤の部位毎にさまざまな変化があり、その組み合わせだけでもたくさんの種類があることがわかります。ここに書いたことは、基本的な事柄ですので、すべてを網羅しているわけでもなく、まあ、基礎の基礎みたいなもので、これらのことについては、詳しく書かれている書籍等もあると思いますので、さらに詳しく知りたい人は、そのようなものを参考にしてください



基礎的なことを書いても、それほど価値はなく、特に飾りに必要である知識でもありませんので、ここからは、少しでも飾りに役立つ事を、いくつか書いてみますので、何かの参考になれば幸いです


●水盤の見極め

 水盤に対する基礎知識は、水石を知っている方ならある程度わかっていることと思いますが、難しいのは『どのような水盤が良い水盤なのか?』という見極めでしょう。石の良否の見極めも大事なのですが、最終的に良い飾りを目指している人は、道具の善し悪しの見極めもできるようにならなければ、絶対に良い飾りに結びつくことはありません。水盤や銅盤というのは、単なる道具の一つではなく、ある意味芸術品の一つでもあります。良い水盤を持たなければならない必要性はまったくありませんが、どのような水盤が優れているのかくらいは、最低限知っておきたいことだと思います。興味をお持ちの方は、一読してみてください

 さて、『水盤の善し悪し』と書いても、人それぞれさまざまなイメージを持っていて、その評価の基準は、水盤作家であったり、価格であったり、希少性(数・形態・釉薬・窯変等)であったりというのが、ほとんどであろうと思います。これらのことは、水盤の良否を決める大きな要素なのですが、私の場合、さらに『形のバランス』を評価の基準に付け加えることにしています。いくら高名な作家さんが作ったものでも、形のバランスが悪いものでは、水石の道具としてはあまり良くなく、なかには使い物にならないものすらありますので、注意すべきでしょう。また、良い水盤には、最低限「歪みや傷が無く、釉ムラも無い完全品である」という条件もあります
 
 では、『形のバランス』での良否を判断する場合で一番重要なものは何かと言いますと、やはり一番重要なのはその【足】にあります。足と言っても、足の形だけといった単純なものではなく、足の幅・足を付ける位置(前後左右)・足の角度などが、その水盤全体で見た場合適切であるかどうか?・・・というところにあります。一口で言ってしまうと簡単なのですが、実はかなり難しいことで、文章で説明するのには限界がありますので、後半に写真を交えながら説明していきたいと思います

 また、バランスというものを考える上で大事なことは、バランスというのは 【比率では無い】 ということも重要です。たとえば全体のバランスが優れている2尺の水盤があったとして、それとまったく同じ比率で1尺の水盤を作っても同じようにバランスが優れているかというと、そうではありません。写真などで小さくしてみれば、2点ともまったく同じなのですが、実物を目の前に置いて見比べてみるのとでは、まったく違うからなのです。そのため、水盤本体の大きさにあった位置・大きさ・角度で足を付けることが重要になってくるのです。このことは卓についてもまったく同じで、卓の大きさに応じた適切な足付けが必要になってきます
 足の角度なども同じですね。間口の広さに応じてその角度を適切に使い分けてあることが必要です。元々足に角度をつけている作家さんも、数少ないのですが、大きさに応じて足の幅比率や角度を微妙に変え、どのような大きさでもキチンとバランスがとれた物を作り出すのが、優秀な作家と言えるでしょう
 この足のバランスについては、陶磁器の水盤のみならず銅水盤についても同じです。陶磁器の水盤よりも凝った作りの銅盤の方が、足の作りにも凝った作品が多いので、むしろ注意が必要なのかもしれません。ボディに比べて足がゴツイものや、ボディが凝った作りの割に足が貧弱すぎるものなど、水石向きでないのが多いと思います
 
 足以上に大事なのはボディなのですが、これについては、過度に浅いものや深いものは、使う石が限られてくる程度で、それほど注意する必要はないでしょう
 その次は縁でしょうか。縁の太さも注意を払う必要があります。縁が太いものなどは、多少厚ぼったい感じにはなるものの水石に使えないほどではありません。縁の太さも、単純に比率で換算できるものではなく、同じ太さなら、小さい物ほど目立たなく、大きくなるとその太さが目立ってきます、
 注意を要するのは、縁が薄い物かもしれません。極度に薄い物などは、そのもの自体を鑑賞している分には問題ありませんが、砂を張り石を据えるとまったくバランスが悪い物がたまにあります。陶磁器の水盤では、薄くて使いもにならない物はありませんが、縁が無い銅盤では極たまに見かけることがありますので、注意することが必要だと思います。やはり縁の太さも、バランスのとれている事が重要になってきます

●水盤の実用性 

 陶磁器の水盤も銅盤もシンプルな物から、作行きの良い凝った作りのものまでさまざまなものがあります。なかには作行き良く芸術性の高いものもあり、見惚れてしまうような完成度の高い作品もあります。しかし、そのすべてが実用できるかというとそうではなく、作品としては素晴らしくても実用向きでない水盤もあり、そのあたりの見極めも必要になってきます
 ここでは、水石用の水盤として実用できる範疇のものについて書いてみたいと思います。水石用の水盤として必要となってくる要素は、一も二もなく 『水石を引き立たせる』 水盤でなければなく、これが絶対要素であります。強弱で言うと石よりも強い水盤であると、石よりも水盤の方が勝ってしまうので、石よりも弱いものでなければならず、いくら芸術性の高いものでも、石よりも水盤の方が勝ってしまうようなものでは、とても実用向きとは言うことができません
 水盤の強弱を決めるものとしては、全体のごつさや装飾が考えられます。ごつい代表格としては、古来から華道の水盤として利用されてきた耳付きの銅盤でしょうか。装飾等の作りも良く、少し深めで便利そうに見えても、耳が付いているだけでどうしてもごつく・強くなってしまい、かなり強い水石を据えても水盤の方が勝ってしまいます。仮にこの銅盤に負けないような水石があっても、全体としては強くなりすぎてしまい、実用向きとは言えない感じがします。もちろん、耳が付いていないものであれば、装飾の度合いにもよりますが十分実用できます
 次に、装飾についてですが、装飾についても一番見かけるのが銅盤で、さまざまな技法によりいろいろな装飾がなされています。銅盤は意匠的な地紋が多く、これらの地紋は装飾とは言っても華美にならず、ほとんどの場合は銅盤の品位を上げることはあっても、石の邪魔をするような装飾ではないので、大部分の装飾は大丈夫と考えて差し支えないように思っています
 陶磁器の水盤では、染め付けのものや極少数ですが赤絵・五彩のものもあります。これらのものは、白磁に呉須かコバルトによる染め付けの為、よほど品位のある染め付けでない限り、石の邪魔をすることはあっても、石の助けをするものではありません。なかには鍋島や柿右衛門の上手の素晴らしい物もありますが、やはり実用ではなく鑑賞用と考えた方が良いかと思います

●変わり水盤

 水盤と一口に言っても、一般的には長方か楕円がほとんどで、他には短冊・丸・輪花・木瓜・古鏡・瓢形などがありますが、水石に使えるのは短冊・丸まででしょうか。古鏡なども大人しめの物であれば使うこともできそうですが、輪花・古鏡・瓢形などになると、水盤自体が強すぎて水石には不向きな形です
 水石には使えない強そうな水盤であっても、草物の根洗いには充分使えますので、もし水石に不向きの強そうな水盤をお持ちの方は、草物専用水盤として利用することをお勧めします。楕円や丸水盤を使うよりも、輪花・木瓜・古鏡・瓢形などを使い草物を飾るのも楽しいことです
 短冊水盤の定義は、間口と奥行きの比率が2対1以上の長方を短冊と呼びます。細長い石を飾る時には、そこそこ重宝して良いのですが、それ以上の短冊(3対1程度)になってしまうと、水盤にあわせる卓がほとんど無いので、宝の持ち腐れになってしまう恐れもあるので、注意する必要があるかもしれません
 丸水盤については、その特徴として 『どの角度からでも鑑賞できる』 ということがあります。ですから、丸水盤使う場合は、その条件を満たした石を据えることになり、基本的には滝石専門水盤と言えるでしょう

●釉薬等について
 陶磁器の水盤には、無施釉の焼き締め水盤から、さまざまな釉薬が施された施釉水盤まであり、釉薬の色彩等により使用できる時期が変わってくるものもあります。水石飾りにおける水盤の役割は、水石を据えるだけの器だけにとどまることなく、時には季節感を現す道具にもなる場合もあるからなのです
 暑い夏の時期には、寒色系の色をした水盤を使って石を据え、涼しげに鑑賞してもらう配慮も良いものです。逆に、夏に暖色系の水盤を使ってしまうと、どうしても暑ぼったく感じてしまいますので、できるだけ避けたいものです。冬飾りも、根本的には同じで、寒色系は避け暖色系の水盤を使うことになります

 代表的な釉薬による季節毎の使い分けは、次のとおりです
・年中使い【一年中使えるもの】
  瑠璃・織部・海鼠・灰釉・黄瀬戸・蕎麦・飴・緑釉・伊羅保・天目・青交趾・瑠璃広東・結晶釉(元色による)
・夏使い【夏(4〜10月)に使うもの】
  均釉・呂均釉・青磁・新しい白交趾、白釉、白磁
  均釉・新しい白交趾、白釉、白磁については、かなり味が付けば年中使いでも大丈夫
・冬使い【冬(11〜3月)に使うもの】
  辰砂・黄釉・黄交趾・珊瑚・鉄砂
  鉄砂については、味が付けば年中使いでも大丈夫


   実際の水盤を使っての実例説明は こちら からどうぞ




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