水石展報告・・・・・@

 平成15年6月13日(金)〜15日(日)に景水会の水石展が、甲府市総合市民会館において開催されました。会場は、2階の和室と展示室の2室を使い行いました。メイン会場の展示室においては列席(一般席)と小品席飾りを行い、会場正面には、仮の床の間を2席設営して展示を行いました。和室には、床の間が2つありますので、こちらでは、正式な床飾りを2席しつらえ、抹茶のサービスなどを行いました。ここでは、その様子をレポートしてみます



まずは、会場をご案内いたします




 
 こちらが、会場の玄関口にあたり、右側が和室で、左側が展示室となっています。正面の飾りは、 「フトイ」 をメインに、添えには 「捨て小舟」 を配して、小さな池沼の景色を表現して、涼しげな景色を演出してみました。初夏の時期に、少しでも涼を感じてもらいたいという配慮からです

 次に、左の展示室に入ることにします
 こちらの会場(展示室)は、入るとすぐに受付があります。こちらで受付を済ませた後に、案内かたがた見てもらうことになりますが、見学する順序ということもありまして、普通は右側から鑑賞することになります
 今回の展示会では、出品石がいつもより多かったため、コーナー飾りは最小限の1カ所だけとなり、水石を中心に、ところどころ季節の草を配する程度にとどめてあります

 このような展示会場で、展示を行う時の注意を数点あげてみます。どのような会場設営をしても、どうしても左右に席の切れ目ができてしまいます。この写真のように一列に陳列する場合は、左右の端に飾るものに注意をしなければなりません。右端に飾るものは、右勝手なものを、左端に左勝手のもを飾ることにより、全体の力配分のバランスをとる必要があります。もちろん、このような場合は、ある程度力のある石を配することが効果的で
 次に重要なことは、陳列する石の大小にも気を配らなければなりません。大きい石を続けたり、小さい石を連続して陳列するようなことは避け、なるべくバランス良く配置していくことが必要です
 もう一点は、陳列に使われている卓にも気をつけなければなりません。普通は、地板・平卓・中卓などが用いられていますので、それらの配置についても、併せて気を配る必要があり、全体として統一されたもにする事が肝要です
また、水石だけでは、硬く味気なく感じられるので、所々に季節の山野草などをあしらい、季節感や柔らかさを演出することも、全体としての調和を図る意味でも大切なポイントとなります


 では
 出品された石の中で、私の気になった水石や飾りについて、少し解説したいと思います


@奈良井川高土破石
 この石は、奈良井川で採石された高土破石で、北海道の神居古潭と同じように非常に硬質な石です。高土破ということで、普通の土破石とは違い、少し高いところに土破を備え、小さな山も遠くに控えていることにより、雄大な景色が連想されます。また、勝手側は綺麗な丸みを帯び、流れ側は若干控えることにより、どこといって文句のつけようのない完璧な形となっています。もちろん、川擦れも効いているし、長い年月による持ち込みにより、十分時代もついており、「寂び」をも感じ取ることができます。惜しむらくは、破面に見られるクラックなのですが、まあ、そんなものは欠点にならないくらいの石です
 この石が、夏らしく涼しげな均窯の長方水盤に据えられ、品の良い中卓の上にバランス良く乗せられていることにより、三位一体となった完璧な作品となっています


A富士川山形石

 この石は、富士川で採石された石で、双峰の合間の谷部に残雪の雪渓の景色を思わせるような石英の白い部分があり、なかなか涼しげな感じのするもので、この時期にはとても似合っている石です。もちろん、残雪の雪渓ではなく滝と水流と見立てても涼しげで良いです。この石は、細長い石ですので、ちょっと変わった短冊超大撫で角の水盤に据えられていますが、調和もとれていて、バランスの良い飾りだと思います
 特に季節感を表すという意味では、とても良い石だと思います


B瀬田川島形石
 瀬田川の灰黒色の石なので、色は少々悪いのですが、硬度はまあまあ高く、もう少し時代が欲しい石です。勝手の右側が高さ・奥行きともあり、一番高いところも多少左前にかぶっている力強い石です。水盤は均窯(正確にはトルコブルーの釉)の短冊大撫で角という水盤に据えてみました
 この石は、パッと見は楕円の水盤に据えるような石に見えますが、頭部の力の働きが左前に働いている力が強いので、正方か短冊形の水盤に据えることによりその調和がとられています
 ただし、斑竹の中卓については、少し「?」です。本来ならば平卓か地板におくべきところなのですが、道具を用意する時間がなかったもので、この卓を使ったということですが、やはり、卓の力が少し強いように感じます


C天竜川島形石
 この石は、故内藤安彦氏の遺愛石です
 昨秋に、不慮の病に倒れて、亡くなられた会員の遺愛石を床飾りにしてみました。この石は、天竜川の石で、形も整い時代もあり、なかなかの良石です。その石を、長方大撫で角の変わった釉薬(実際は緑釉)の水盤に据え、本塗りの中卓におかれております。漆塗りの黒い卓・水盤の色・水石が絶妙の調和を醸し出していることがわかります。均窯・呂均窯・青磁などの明るくて品格のある水盤は、塗り物の卓が、その美しさを引き立てていることが、良くわかります
 こちらが、席飾りです。掛け軸は、梅雨の雨が描かれている軸で、添え草はコアジサイを配することにより、入梅時の景色が上手に表現されていることがわかります。しいて言わせてもらうと、あと一寸ほど軸の高さを上げ、五分ほど卓を右に寄せたいところというくらいでしょうか


E賀茂川岩形石
 賀茂川というよりも貴船石と呼ばれている京都の真黒石で、もちろん、賀茂川で採石されたものです。浅く広がりのある岩礁と、屹立した岩塊を持つ海辺の景色を持つ名石です。これを短冊大撫で角の鮫肌をした釉薬を持つ水盤に据えてあります
 平卓にするか、地板にするか迷ったそうですが、最終的に地板を用いることにしたようです。「床飾り=卓を用いる」というようなイメージを払拭するためにも、試みとして地板を使ってみたそうです。もちろん、海の景色ですから地板でも抜群の相性を見せている飾りです。風景的な統一感ではなく、季節感のみを表そうと、掛け軸はホトトギス(不如帰)を掛け、添え草などは配さずに、シンプルに2点で飾ってあります
 地板と水盤の色が少し突いている(色味が同じ感じである:同系色)ことが、残念といえば残念です。もう少し暗い感じの色の方が、全体としての調和はとれることと思いました。また、掛け軸の位置も少し高すぎます。二寸ほど下げて飾ることが良いでしょう


E千軒岩形石
 この石は知内川で採石された石で、硬質の真黒石です。波が打ち寄せえぐられたような形に見える、海岸線の岩形の石です。Dの賀茂川石と同じように海辺の景色を表していますが、Dは比較的穏やかな岩礁風景なのですが、この石は三陸地方のリアス式海岸を思い起こされるような断崖絶壁の景色を持つ石です。夏らしく均窯の長方水盤に据え、卓は輪島塗りの平卓を用い、全体の調和が図られていることがわかります。これも、Cの水盤ほど良い水盤ではないのですが、同じように本塗りの卓に良く映えていることがわかります。さして高価な水盤ではないのですが、この卓と取り合わせることにより一格上がったように感じます。これこそ 『取り合わせの妙』 というべき事ではないのでしょうか。恐らく、塗り物ではない普通の卓であれば、これほど石も水盤も映えることはなかったでしょう


F奈良井川段石
 これは、奈良井川で採石された真黒石で、少し背の高い段石になっています。勝手側の押し・流れ側のひけ・段の状況・石の擦れとも申し分のない石です。このように全体的に背の高い石を水盤に飾る場合については、もう少し水盤内の手前に飾ることが必要です。このように少し奥に飾ってしまうと、水盤の奥の線が石とダブってしまい、窮屈に感じてしまうからです。よく「水盤の中央線よりも奥に石を据えろ。3分の2くらいの位置がちょうど良い」などと言われていますが、これは、あくまでも目安だけであって、背の低い石については、それくらいでもかまいませんが、基本的には石に応じて臨機応変に据え位置は変えなければなりません。石を据えた場合、水盤の前の広がりに気を配るのではなく、水盤の奥の線との関係に注意することが重要なのです
 この飾りも、夏らしく青磁の水盤を用いています。石・砂・水盤だけをとってみると、三位一体となって問題ない(しいて言えば、もう少し深い水盤が良いと思いますが、許容範囲内です)のですが、水盤と花台の色映りになると、CEに比べると、一格落ちてしまうことがこれだけでもわかると思います。この花台は花梨製ですので、花梨の持つ独特の赤みと青磁の青が反対色ということもあり、水盤だけが浮いてしまいました。せめて、黒檀や紫檀製であれば、特に問題はないのですが、赤味を持つ花梨と青磁・均釉・呂均釉などは、どうしてもケンカをしてしまうことがこの飾りでもわかることと思います


G笛吹川溜まり石
 この石は、鞍馬石と同じ笛吹川の硬質花崗岩で、これは、そのソゲ石です。ソゲて薄い石なのですが、見付の形は勝手側にボリュームがあり、そこそこの押しを感じ、また、流れ側は、綺麗にえぐられたような方になっていて、見付の美しさは抜群であります、いわゆる 『痩せ』 の効いた石です。また、上面から見た形も、文句のつけようもない形をしていて、今回の展示会に出品された石の中では、最高の石であります。文句のつけようのない、まさに名石です。このような石は、上から覗き込む楽しさもありますので、平卓ではなく地板に飾ることにより、よりいっそう鑑賞の楽しさが増します
 スズ竹の地板に呂均釉の水盤を用いて、石の風情とも相まって、季節感もある素晴らしい飾りとなっていることがこの写真からでも十分伝わっていると思います

○−ワンポイント−○  鞍馬石について
 鞍馬石は、京都の鞍馬地方で産出する花崗岩で、時代が経つと鉄錆が浮いてきて、赤黒くなっていわゆる『寂び』が効く石として、一般の方にも知られている有名な石です。花崗岩というのは、日本全国から産出されているのですが、他の花崗岩に比べ、同じ花崗岩である鞍馬石だけがなぜ有名になり、評価が高くなっているのか? それは、第一が硬度であります。普通の花崗岩は、雨水などにより浸食されると、非常に風化しやすい石としても知られています。地質学的には、風化した花崗岩は「マサ土」とも呼ばれ、災害を起こす危険な土壌としても認知されているくらいですから、硬質な花崗岩が少ないことがわかります。次には、石の中に含まれている鉄分の含有量の差もあるでしょう。鞍馬石は非常に鉄分が多いので、雨水にあたると石の中に含有されている鉄分が酸化し、鉄錆が浮いてきて、独特の石肌になってきます。この2点が他の花崗岩と比べ際だっているので、有名となったのです。花崗岩というのは、白いなかに黒い点々が飛んでいるような石なのですが、京都の鞍馬石は、中に含まれている黒い部分が非常に細かいという特徴があり、他の花崗岩のほとんどは、黒い部分が大きくまばらにしか含まれていません。いずれにせよ、花崗岩が生成する時に含まれる成分含有量の違いが、このような違いを起こしています
 ですから、本当の鞍馬石(京都産)かどうか見分けるのには、この2点に注意すると、見分けることがでるようになります


H奈良井川島形石
 この石は、Fと同じように奈良井川で採石された小品石です。色は真黒ではなく、若干緑色を帯びた硬質な蒼黒石です。左に主峰が聳え、湖と入り江を形良く備えた島形石です。この石も、これといった欠点もなく、小さいながらも雄大な景色を感じさせるまとまりのあるなかなかの良石です。本来なら、この石は、長方の水盤に据えることによって活きてくる石なので、長方の水盤に据えなかったのが残念といえば残念です。本人も、そのことは承知しているのですが、ちょうど良いサイズの長方水盤がなかったため、やむなく楕円水盤に据えたということです
 また、飾り全体としては、卓の悪さにどうしても目がいってしまいます。作りや質の悪さはともかくとして、一番ダメなところは、算木の太さにあります。算木の卓は算木やそれを受ける部分が細くなくては、水石には不向きです、算木を受ける部分が水盤と同じくらいの厚みを持っていては、残念ながらどうしようもありません。地板に飾ればはるかに格が上がることでしょう


I梓川岩形石
 梓川で採石された石で、色は茶色に少し白みがかかった感じの硬質の石です。さほど良い色ではないのですが、少し時代がついてきたので、今回飾ってみることにしたそうです。左右が四寸ほどの小品石ながらも、荒々しさや力強さを感じる石なので、長方水盤ではなく、大撫で角の短冊大撫で角水盤に少し広々と据えあります。水盤の色については、全体を見ると夏らしく涼しげな水盤が多いことから、青系統をあえて用いずに、茶系の水盤にしてみたそうです。水盤と石の色の調子が少し重なっているように見えるのですが、まあ、これくらいなら問題ないとかなとも思います。平卓も、足が天板より少し出っ張っていますが、これくらいなら、十分許容範囲内で、荒々しく感じる石をスッキリと飾ってあることが伺えます


J釜無川溜まり石(床の間飾り)
 こちらは、床の間飾りの一席です。この石は、釜無川で採石された溜まり石で、ちょっとせり出し気味のお洒落な形をしています。硬度はそれほど高くなく、どちらかというと柔らかい質の石ですが、時代がのっていることにより飾るのには十分な石です。最初は中卓をあわせていましたが、このような琵琶床に対しては、中卓がダメということではないのですが、やはり平卓や地板の方が合いそうだということで、急遽地板に交換してあります。これは、交換後の写真ですが、このように写真にしてみると、やはり平卓が琵琶床には一番あいそうですね
 掛け軸は、廻り灯籠と風鈴の絵です。そろそろ蒸し暑さを感じだしたこの時期には、願ってもないくらい季節感のある軸です。山水形状の石との関わりはほとんど無いのですが、軸により絶妙の季節感を表している好例だと思います。添えは、琵琶床の上にやさしい草を添え、全体として柔らかさが醸し出されています


K北三陸海岸滝石(床の間飾り)
 この石は、北三陸海岸の滝石です。パッと見は、変哲もない立ち石のように見えますが、石の中程が縦に窪んでいて水が流れていない涸れ滝の様子を、少し抽象化した石です。いわゆる抽象石と呼ばれているものとは違い、あくまでも山水形状を少し抽象化したものです(正確には、抽象というよりも具象に近いものと思います)。いずれにせよ、涸れ滝の風情を感じる、この手の石としては、かなりの良石だと思います。それを、上品な巻き卓に据え、掛け軸は、『橋』の図柄になっています。普通の山水景状石なら水盤に据えた方が、圧倒的に良いのですが、このような具象的な山水景状石なら、台につけたままで飾る方が良いということが、この飾りからもわかると思います


 以上 
 簡単ですが、いくつかの水石飾りについての、私の私感を書かせていただきました。もちろん、見る人によっては、違う印象を持つかもしれませんし、違うように感じることとは思いますが、物事の本質を追求していくことは重要なことと考えていますので、ざっくばらんな感想(評価)を書いているつもりです。よろしければ、僕の感想も参考にしてみてください


 続いて会場の風景を・・・・・








 最後に、飾りに使った季節の添え草の一部を紹介します

イタドリ


ヒメタケ


コアジサイ


西洋シノブ


ベニチガヤ



 最後まで ご覧いただき ありがとうございました





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