水石を飾る



 水石の面白さというか、奥が深いのはそれを飾る事にあると常々思っています。素晴らしい名石を拾ってきたからといっても、拾ってきて庭に放置しておくだけは、ただ「拾った」だけで、水石の楽しみは半減してしまいます。できることなら、その石を美しく飾って楽しみたいもので、さらには、その石を最高に活かすには、どのように飾れば良いのか・・・・・考えたり実践していくのが、飾りの醍醐味とも言えるでしょう

 今回は、飾りの初歩的なものについて、少し触れてみたいと思います。題材は上記の石で古い多摩川産の真黒遠山石です。据えるのに簡単な石ではあまり勉強になりませんので、ちょっと難しそうな石を選んでみました




 上の写真は、この石を真上から撮影したものです。点線で示した部分に厚みがあれば名石の仲間入りをする事ができるのですが、主峰奥に厚みがないのが惜しい石です

 石のサイズは、間口18cm×奥行き5cm×高さ2.4cmという細長く丈の低い遠山石で、水盤に据えて飾るのには、恐らく一番難しい形状の石ではないかと思います。なかには、同じような石を持っていて、飾るのに難儀している人もいるのではないでしょうか




 この撮影位置が、この石の見付けです。細長さは上記2枚の写真でわかるかと思いますが、これを見れば石の薄さ(丈の低さ)もわかると思います




 石が細長くて丈が低い(薄い)となれば、使うことができる水盤も自ずと限られてきて、細長く極浅の水盤でなければ、まず合わないのは必定です。そのため、手持ちの水盤の中からこの2枚を候補として選んでみました。陶器の水盤では、この浅さに対応できるものはまずありませんから、浅い銅盤に限られてしまいます

 上の銅盤は、かなり細身の小判型で、縁も薄くかなり弱い水盤です。下の水盤はラグビーボール型の水盤で、外縁になっています。この2枚は似ていると言えば似ていますし、似ていないと言えば似ていないのですが、この石を飾れそうなのは、手持ちの物ではこれくらいしかありませんので、この2枚を使って実践比較してみたいと考えています




 1番の飾り

 最初に上の銅盤に据えてみたのがこの写真です。写真ではわかりにくいのですが、石に比較して銅盤がやや小さく感じるため、沈められるだけ沈めて据えてあります。卓は、手持ちの中ではこれが一番合いそうなので、この卓を合わせてあります




 2番の飾り

 こちらの写真は、下の銅盤に据えたもので、石を据えるのにも、水盤とのバランスに合わせ沈め具合が調節してあります。卓については、小さすぎるのはわかっていますが、上と同じものを試しに使ってみましたが、やはり、ちょっと窮屈ですね




 3番の飾り

 そこで、この銅盤に合いそうな卓を合わせたのがこちらの写真になります。この卓ですと、大きさやバランスもちょうどピッタリです




 4番の飾り

 この石は、前述したように水盤飾りをするのに難しい石ですので、台座飾りも試してみたいと思います。とりあえず最初の卓と合わせたのがこの写真です。とりあえず置いてみたのは良いものの、これではどうにもなりません(笑)




 5番目の飾り

 2番目の卓はもっと大きいので、そんなのと合わせても意味がありませんので、この石に合いそうな卓と合わせたのがこの写真です。これですと、わずかに大きめではありますが、だいたい合っていると言って良いでしょう


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 さて、ここまで5つの飾りを試してみました。この石を最高に活かして飾るのには、細長く薄い石ですので、水盤は薄い切立でラグビーボール型の銅盤が一番似合い、卓もそれに見合ったちょと華奢な物と合わせるのが一番良いです

 ところが、水盤や卓などの道具類を豊富に持っていれば、合わせるのは難しいことではありませんが、すべての石に対応できる道具を持っている人などまずいませんので、結局のところどこかで妥協をしなければならないのが現実です。普通の石ですら合わすのに苦労をするわけですから、このような難しい石を合わせる事になりますと、100点満点に飾ることができる人などは皆無でしょう

 さりとて、ピッタリ合わせることができる道具を持っていないからと言って、ただお座なりに合わせていたのでは、面白みもありませんし、向上することもできません。手持ちの道具をどのように取り合わせばこの石を最高に活かすことができるのかを常に考えながら石を飾っていく事が大事で、このような心がけを持っていますと、必ずや飾りが上達していくものと考えています

 では、どの取り合わせが一番石を活かしているのか、実際に考えてみたいと思います。1番〜5番までの飾りがありますが、2番と4番は論外ですので、実際は1番・3番・5番のどれが一番良いのか?・・・・・という事になります。このまま読み進める前に、少し考えてみて下さい


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 さて、1番・3番・5番のどれが一番良いのかとなると、それぞれ一長一短がありますし、好みもあるでしょうから難しいところです。とは言いましても、できるだけ客観的に評価する事をしなければ、どの飾りがこの石を一番活かしているのかわかりませんので、あえて評価をしてみる事にします

 まず1番の飾りですが、水盤がちょっと窮屈めではありますが、薄い石ですから切立のシンプルな線と良く調和しています。それに平卓を取り合わせている飾りですが、卓がやや強い感じを受けてしまいます(これは、水盤が極薄な為で、この水盤にピッタリ合う卓などなかなかあるとは思えませんので、ある程度は我慢と言う事になります)

 そして、全体的に見ますと、ゴツイ物(卓)の上に華奢な物(石・水盤)をただ乗せてあるという感じになってしまっています。三位一体というにはほど遠い飾りではありますが、さりとて、まったく駄目ということではなく、それなりには合っていると言え、良い所もあれば悪い所もあり、総合評価は80点といったところでしょうか。一番マイナスの要素は、何と言っても卓がゴツイ事につきます。石が弱く優しいのに、その良さを引き出す事ができていません。これでは、この石を最大限活かしているとは思えず、評価が低くなってしまいます。もちろん、水盤がやや小さいのもマイナス要因になっていますが、浅く華奢ながらも高級感のある水盤を選んでいるのはプラス要因として働いています

 次に3番の飾りになりますが、石と水盤の大きさ的なバランスはちょうど良いくらいの感じになっていますが、水盤に外縁がついていて、丈の低い薄い遠山石を飾るのにはやや強めであり、ちょっと煩い感じがしないでもありません。とは言え、外縁がマイナス要因となっているだけでなく、それほど強い物ではありませんから、ちょっとした変化とか高級感を感じさせる事にもなっていますので、このあたりは微妙なところでして、パット見は「ちょっと煩いかな」と感じても、じっくり見ていると「さほど悪い方向だけに働いているわけではなく、ちょっと高級感があるな」という感じでしょうか

 卓との調和についてですが、この巻卓の特徴は見てのとおり足の部分が強い事です。大きさ的には卓とも合っていますし、天もスッキリしていて良いのですが、足の巻きがやや強いため、1番と同様卓が勝ち気味になってしまっています

 それでも、トータルで見ますと、そこそこ纏まってはいて卓が強すぎる1番よりは上で、総合評価は90点くらいは付ける事ができそうです。トータルでのバランスについては1番よりも圧倒的に優れているのですが、やや卓や水盤が強いのがマイナス要因になっています

 最後に5番の台座飾りについてですが、水石とは広義の盆石とは違って水盤に砂を敷き据えて、軽く水を打って鑑賞するものです。茅舎や紋様石、あるいは大きな石であれば台座飾りでも良いのですが、手頃な大きさの山水景状石を台座飾りにしてしまいますと、それだけで水盤飾りよりはちょっと落ちてしまいます。もちろん、絶対に駄目という事ではありません。あくまでも、水石の濡れ姿を鑑賞できなかたっり、砂を地面や海と見立てる事ができない分、景色を想像する幅が狭くなってしまい水盤飾りよりも鑑賞価値が落ちてしまうと言う事です。そのため、5番の飾りは景色を想像しにくいというハンデがあります

 この石は台座の作りもまあまあ良くて、石と良く調和していますので、台座については申し分ありません。次に卓との調和を見てみますと、足の曲がやや煩わしいものの、全体としては華奢な感じで台座を付けた石との調和はかなり良いです。総合的な評価は90点くらいになるでしょう。マイナス要因としては、ほんの少し卓が大きいのと、卓に高級感が足りない事となります

 このような感じで、さまざまな飾りのパターンを評価するなかで、最終的にどのように飾るのかを決めていきますと、少しでも良い飾りになるよう近づいていくものと考えています。この石の場合、飾るのが難しくピッタリ合う道具もないため100点満点の飾りにはなりませんが、どのように飾ればより良くなるのかの参考にはなるのではないかと思っています

 この石を100点満点に飾ろうと思えば、1番くらいの水盤でもう少し広めの物を用いて、3番の様な天板が薄い卓と取り合わせますと、ほぼ満点に近い飾りになりますが、そこまで道具を持っている人はまずいません。だからといって最初から諦めてしまうのではなく、たとえ1点でも2点でも上の飾りになるよう心掛けていると、石を活かす力も少しずつついてきて、だんだん良い飾りができるようになっていくはずです

 慣れてくればこのように水盤に据えなくても、どの水盤とどの卓を組み合わせればちょうど良いという事がわかってきますが、最初のうちは試行錯誤しながら実践し、「どこが良いのか?」「どこが悪いのか?」適切に把握していく事も大事な事だと考えています。もちろん、最初は難しい石でなく、簡単な普通の山型や溜まりから始めてみるのが良いでしょう

 そのような勉強をしていきますと、石・水盤・卓を三位一体(100点満点)で飾る事がいかに難しいかがわかることと思います。石・水盤・卓がだいたい合っていると言う程度のレベルでは、三位一体とはちょっと違ってきてしまいます。本来の三位一体というのは、非の打ち所がないレベルのものこそがその名に恥じない飾りなのです

 ここで注意したいのは、たとえば90点程度で同程度の飾りがあってとして、一方は「これが満点と思って飾っている」のと、もう一方は「あと一歩このように飾りたいのだが我慢している」のでは大きな差があると言う事です。飾ったものが全ての世界ではありますが、自分では最高の飾りと思っていても、上には上があると言う事をわかっていないのと、最高の飾りにはならないが我慢しているのとでは、それぞれの力量差はまったく違ってしまいます

 三位一体で飾る事ができるのは、その石にピッタリと合った水盤と卓を見つけてこなければなりませんので、誂えて作るのならともかく、普通ですらなかなかできる事ではありません。それでも、そこを目指して最初は60点くらいであっても、徐々に頑張っていけば良いだけですし、できれば平均で80点を超えるくらいの飾りができれば、かなりの腕前になっているはずです

 飾りの面白いのは、三位一体が最終形ではなく、その上があるというのも面白い事でして、普通三位一体と言えば100点満点の飾りという事になりますが、三位一体だけでは飾りとして満点というだけであって、そのうえに侘び寂びとか、痩せや枯淡の味わい、あるいは格調美などが加わる事によって、【三位一体+α】の飾りになり、見る人に得も言われぬ感動を与える事ができるのです

 さすがにこの域に到達するには、古くて味のある石や洒落た道具類などがなければ表現する事はできませんが、最終目標はこのような飾りであることは間違いないものと考えています




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