軽い草物

 先日、夏飾りに使う草物は、「軽く作り軽く飾る」と書きましたが、あまりに抽象的な表現過ぎて、理解できないだろうと思い、今回は、このことについて少し触れてみたいと思っています

 草物は、大きく分けると3つのタイプになり、それは、細長く伸びる物・丸くなる物・平たい物です。今回触れるのは、最初の「細長く伸びる物」についてです。このように細長く丈がある草物を通称『天突き』の草物と称しています

 盆栽の素養がある方は良くわかると思うのですが、細長く伸びる文人木・細幹の寄せ植え・細幹の株立ちなどは、深い鉢でなく浅めの鉢でないと、まったく似合いません。草物もこれと同じで、浅い鉢を利用する事により、より高さを強調させながらも調和する事になり、浅めの鉢を利用する事が一番の前提になってきます。根洗いにする時も同じで、できるだけ薄めの根洗いにすることが肝要です
 この事は、初心者の方でもある程度わかると思うのですが、これだけで良い草物が作れるわけでなく、肝心なのは、これからでして、次の事項を加えて覚えていけば、夏向きの軽くて優しい草物を作る事ができるようになります
 
 最初に注意したい事は、【両端を空ける】ということです。ほとんどの草物は、鉢に植え込み持ち込むにつれ、株が少しずつ増えていき、やがては、鉢一杯にまで株が広がってしまいます。また、毎年根の量も増えることから、少しずつ盛り上がってしまい、株元の高さが鉢上よりもだいぶ上がってしまい、持ち込みを重ねると、鉢の上に乗っかっているような状況になってしまいます。これくらい持ち込んである方が、古さが出て良いと考えている人が非常に多く、なかには、それくらい持ち込んだものでないと、主役としても添えとしても使えないなどと思っている人すらいます

 水石がよりその美しさを強調しようと、水盤や卓を吟味しながら合わされたり、盆栽も美しさを表現するために剪定・整枝されたりするのと同じで、草物についても、古さだけでなく、そこに美しさがなければ観賞価値など無いに等しいと思っています。人によっては、持込が古くて根鉢自体が盛り上がっているような物を重宝する人もいますが、私は、まったく反対でして、そのように持ち込まれたものには、ほとんどの場合、古さだけは感じられても肝心の美しさが伴っていない物がほとんどで、飾って鑑賞しようという気持ちになれません。やはり、古さも大事なのですが、それよりも美しさが必要ではないかと考えています。美しさよりも古さを尊ぶ人には、これより先の事は無用な事になるでしょう

 ということで、本題の【両端を空ける】ということに戻りますが、これはどのような事を言っているのかといいますと、文字どおり鉢の端を空けるという事です。 1枚目の写真(シラサギガヤツリ)のような感じで、鉢の端(縁)を空けるように作る事です。根洗いにしても同じです。鉢一杯に作ってしまうと、どうしても野暮ったくなってしまい、軽さ・柔らかさ・細さ(繊細さ)を出す事はできません。両端が空いていることにより、草姿と鉢(根鉢)部分のバランスが良くなり、柔らかさや軽さが良く表現できるようになるのです。ですから、2枚目の写真のような姿を作る事を目標にすれば、だいたいは良い草物にすることができます。これが、鉢一杯にまで作ってしまうと、重くなってしまったり、厚ぼったくなってしまったり、やはり野暮な草物になってしまいます。野暮ったい水石や盆栽には、このようなものでも合いますが、合うというだけで、やはり良くはありません 

 ただし、鉢一杯まで持ち込んでも良い場合が二つあります。一つ目は大き目の皿形鉢(陣笠等)を使う場合です。この手の鉢については、ほとんどの人が使い方を理解していないので、まず、本当の使い方から紹介しなければなりませんので、最初に、使用方法から説明することにします
 普通であれば、鉢は縁まで用土を入れたり、ひどいときには鉢の縁よりも盛り上げて用土を入れ使っています。ところが、この手の鉢については、絶対に盛り上げて使ってはいけませんし、鉢の縁よりも用土を低く盛って使う事が、このタイプの鉢を使いこなすための最低条件です。つまり、鑑賞時には、鉢の内側が見えることが大事なのです。そのように使う事により、安定感も生み出しますし、非常にバランス良く調和する事になるのです。この手の鉢は、使いにくいという事で、あまり人気がないのですが、使いにくいのではなく、使いこなす事ができないから人気がないのが実状でしょう。上に書いたような原則を知らないと、上手に使いこなす事はできないでしょう
 根洗いにして使う時も、考え方は同じです。根洗と言いますと、水盤や平らな陶板の上に乗せられるのが一般的ですが、天突きの草に一番似合うのは、やはり皿鉢形みたいなものであり、左右の縁の下に空間があるものがスッキリとして上品な草物に見せることができます

 このような使い方をすれば、最初から鉢の縁を空けていますので、用土一杯にまで株が増えてもまったく問題はなく、当初の形を維持していく事ができるのです。もちろん、あまりに小さい小鉢では、縁を空けて作る事は難しいかと思いますが、小鉢(豆鉢)であっても、絶対に盛り上げることなく、できるだけ縁を空けるということを気にかけて作る事は必要です。用土を盛り上げてしまえば、使い道は無いと思ってください
 この手の鉢は、普通の人はあまり使わないと思いますが、皿鉢や陣笠形のように高台が小さくすぼまっているような形の物は、私の一番好きなタイプの鉢でして、何10個あっても足らないくらい好きで良く使う鉢です(笑)。とにかく、品の良さは抜群なのに、人気がないからあまり作られないのが残念です

 二つ目に大事なことは、上でも少し触れましたが鉢や陶板の形です。【皿・陣笠などのように、上部が広くて下部にいくに従って狭くなっているタイプ】(鉢の左右の縁の下に空間のある)物を使うという事です。天突き物の良さは、高さ・細さといったことになりますが、これらをより強調させ、しかも美しく調和させるには、この手の鉢しか合いません。できうる限り、このようなタイプの鉢なり陶板(皿鉢)を使いたいものです。3枚目の写真(ベニチガヤ)は、碗型の小鉢に根洗いをのせたものです。ちょっと極端な例になりましたが、これでも、もう少し茎が伸びれば、ちょうど良く合います(茎が伸びた場合は茎数を減らします)

 皿鉢や丸鉢等で作っていても、いつしか鉢一杯まで株が増えてしまうのは仕方がないことです。鉢一杯まで増えてしまったからといって、使い物にならないわけではありません。このようになってしまった鉢については、草姿の調整をしながら使えば良いわけで、三つ目に大事なことは、【草姿の調整】ということになります

 草姿を調整する事で最初に行うことは間引きになります。植え込んだ株が鉢一杯にまで増えてしまうと、かなりの茎数になってしまい、あまりたくさんあり過ぎてしまうと、重くなってしまったり、厚ぼったくなってしまいますので、茎数を減らす(間引く)事を最初に行います。この場合、鉢縁に生えているものを最初に切り取り、あとは全体の様子を見ながら茎数を減じることになるのですが、間引き方については、すべてが一様ではないため、文章で表現する事が難しいので、とりあえず、サンプル写真(4枚目:ホソイ)を載せてみますが、写真ではわかりにくいと思いますが、かなりの茎数が間引かれています

 間引きがすんだら、草物によっては、葉等の調整になります。これは、葉数を減らしたり、勝手を作ったりする事になり、一番センスが問われるところでもあります。このことについても、文章で表現できるきれるものではありませんので、ポイントを何点か書いて、写真を参考にしながら説明したいと思います

・下葉をとる事
 竹類・葦類等のように低い位置から高い位置まで同じような葉が付いている草については、下葉を取り去る事がまず必要になります。これは、下葉を取ることにより、用土(地面)と草の向こう側が見えるようになり、奥行き感が出るとともに、厚ぼったさをなくし、高度感と軽やかさが表現できるようになります。まあ、文人盆栽を作るような感じと思ってください。6枚目の写真でもわかると思いますが、下葉を取り去ったものの方が軽やかになっている事が良くわかると思います

・勝手を作る
 草物も水石や盆栽と同じで自然な勝手を作ってやらなければなりません。今回の特集のような丈の高い草物については、あまり強い勝手を作ってしまうと、うるさくなりすぎてしまいますので、わずかに勝手を作ってやる事が大事です。勝手を作る場合は、一番背の高い茎で作る場合と、どれかの茎に流れを作ることにより勝手を作る場合があり、どちらを利用してもかまわないのですが、基本的には、その草姿のよって勝手を作り分ければ良いと思います

・仕込み
 この仕込とは、飾る時に行う草姿の調整ではなく培養時の事になるのですが、参考までに記すことにします。仕込みとは、私の造語であり、どのようなことを指すのかと言いますと、イグサ類・トクサ類・アシ類などのように天突き物を作る場合、その美しさの命は、なんと言っても垂直にピンと伸びる茎です。放置しながら作っていると、茎があちこちの方向へ向いてしまったり、垂れてしまったりと、自然の状態でピンと垂直に伸びる茎を作ることは不可能です。そこで、茎が真っ直ぐ垂直に伸ばすための手伝いをしてやることになり、その事を仕込みと呼んでいます。盆栽の幹や枝の向きを針金で矯正するように、草物についても人間が矯正する事により、真っ直ぐ垂直に伸ばすことができます。具体的には、5枚目の写真(ホタルイ)のように、成長途中の茎を紐や針金で真っ直ぐに伸びるように矯正しながら成長をさせます。そうして、いざ飾る時には、矯正している紐や針金を外したり、剪定したりし、あとは手で調整してやりますと、真っ直ぐ垂直に伸びる茎を作ることができます。この事を仕込みと呼んでいますが、名称や方法はともあれ、真っ直ぐ垂直に伸びる茎を作る事は天突き物の命みたいなものですから、草物に興味のある方は、覚えておくと良いと思います。我が家には、このように紐で縛られた草物が10数鉢もあったりします(笑)

  

 最後になりますが、6〜7枚目の写真(カリヤス)が、手入れ前と手入れ後の例です。この草の場合、茎数を減らした後、下葉が取り去られ、穂数を調整しながら勝手を作って一応の手入れは完成です。一番右の穂が上部で少し右を向いていますが、飾る時には、これを手折りながら左へ流れる勝手を作ってやり、右勝手の草に仕上げることになります。写真で見ると、もう3〜4本真ん中あたりにある茎を抜いても良いかもしれません
 実際、この草を玄関に飾ってみたのですが、さらに数本の茎を抜いて飾りました




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