6月に入ると衣替えにもなり、いよいよ初夏になります。今月の中旬からは梅雨にも入るでしょうし、鬱陶しい季節がすぐそこまで来ています。今年は入梅前にもかかわらず、4〜5月に日照不足や雨が続き、庭木や畑に病気の発生を危惧していたのですが、今のところ、生育の不順はあるものの、病気の発生は見られず、少しホッとしているところです
今月の主役は、富士川産の溜まり石です。ボリュームのある天溜まり(高溜まり)の石で、瑠璃釉の楕円水盤に据え、紫檀の平卓と取り合わせ、軸は蛍の図で2点飾りとなっています
この石は、錦繍石と呼ばれている石で、緑と紅が混在しているような色をしていて、ところどころに石灰分を噛んでいる石です。擦れや酸化で溶けた石灰分の跡が、溜まりの芸をしている石です。天破だけでなく、前後左右どの面も、石灰分が溶けた跡が激しくジャクレ状を呈していて、溜まりであっても普通の溜りではなく、厳密に言いますと、景状としては磯形溜まりのような感じの石です。磯形溜まりでも構わないのですが、配軸の都合等もあり、今回は普通の溜まり石として飾っています
水盤は、少し浅めではありますが、瑠璃の水盤を使っています。この石にピッタリ合う深めの緑釉の水盤があるのですが、石の色と水盤の色がダブってしまうため、仕方がなくこの水盤に据え、紫檀製の平卓と取り合わせてあります
軸は、柳に蛍です。柳も絵画では好んで使われる画題の一つで、「柳に蝙蝠」「柳に蛙」「柳に翡翠」「柳に蝸牛」「柳に鷺」などのように、水辺や夏季に由来した画題が多く、樹木においては、古くから夏の象徴とも言えます。もっとも、「枯れ柳」などという冬の画題もありますが、基本は涼感を味わう代表的な樹木です
添えについては、絵画に樹木が描かれていますので、添え草は使えません。しいて、置くとすると、舟形や魚籠などの添配が考えらたのですが、ボリュームのある石のため、これに添えを置くと席が煩雑になりやすいため、今回は2点飾りとしました
今回の飾りについては、卓の修正行為のために行ったものです。卓の保管については、通常、4本の足を下にしたり、天破を下にして保管しなければならないのですが、この卓だけは、一ヶ月ほど、段ボール箱に入れたまま縦(左右の側面を上下にした)にして保管をしてしまい、箱から出して確認してみたら、案の定、少し天板が反ってしまっていました(失敗です)。そのため、その反りを直そうと思い、今回、この卓を使おうと思い、石と水盤を決めたという、内情は少々お恥ずかしいことになっています
陶磁器と違い、木製品はデリケートですので、特に湿度の管理と、保管方法には気を使います。あまりに乾燥させると、すぐにヒビが入ったり、継ぎ目に隙間ができたりします。また、今回のように平らなものは平らにしておかないと、すぐに反ったりもしますので、この点も注意が必要です
今回のように、少しボリュームがあり重量もあるような石を据える時は、天板の逆反りにも注意しなければなりません。重量のある石を長時間乗せておくと、天板が下に反ってしまう事もしばしばあります。重いものを乗せる場合は、天板と床の間に、支えを置いておき反りを防ぐ事も重要です。これは、普通の展示会でも同じで、3〜4日間というわずかな時間であっても、乾燥気味の展示会場では、割と簡単に天板が反ってしまい、なおかつなかなか元に戻りません。ですから、展示会等においても、天板と床の間に添え木を噛ませたり、夜間は水盤ごと卓から降ろしておく等の配慮が必要です
なお、運悪く天板が反ってしまいましたら、今回のように少し重めのある石を卓の上に乗せ、卓の下には皿とか小鉢とかに水を張っておき、湿度を与えながらゆっくりと元に戻せば、天板の反りは直すことができます。ただし、長期間反った状態のものについては、なかなか元通りに修正する事は難しく、今回のような状態で、長期間置いておかないと直すことはできません
ちなみに、地板が反ってしまった場合は、4〜7日ほど水につけておいて、たっぷりと水を吸わせてから、平らになるように固定して乾燥させることにより、かなり修正する事ができます |